2012年6月1日金曜日

NHK ダーウィンが来た!西湖のクニマス調査に参加しました


6月3日19:30より、あの絶滅したとされていたけれども、別の湖で再発見されたクニマスをテーマとした、NHKの番組「ダーウィンが来た」が放送されます。
実はこの西湖のクニマスの調査に、釣りナビくんを運営する我々マリーンネットワークスも参加しています。

あれはまだ冬真っ只中の今年の2月頃でした。NHKさんから「西湖でサイドスキャンソナーを使ったクニマスの調査をしたい」との依頼があったので、渋谷区神南方面へ打ち合わせに行くことになりました。

朝日新聞 さかなくんクニマス発見のニュース
クニマスと言えば、ご存知の方も多いと思いますが、何年も前に絶滅したとされる田沢湖の固有種ですが、あのさかなクンが富士五湖の一つの西湖で再発見したことで、一躍有名になりましたね。
その辺の詳しい話はすでに語りつくされていると思うので、ここで深くは触れませんが、とにかく日本の生物学会においては歴史的な大発見といえるものです。釣りキチ三平にも似たようなストーリーがありますし、釣りをする人にとってもなかなか興味深いことです。

ちなみにその時の「ダーウィンが来た」の担当の方の話では、「西湖で発見されたクニマスの水中映像を撮りたい、できたら産卵シーンまでカメラに収めたい」とのことでした。
えっ、産卵シーン? クニマスって最近西湖で発見されたばかりで、しかもその生態については田沢湖の昔の文献に少しばかり残っているぐらいなはず。まだ未知の部分が多い魚で、今の段階ではほとんどUMAとして取り扱ってもいいぐらいな魚なのに!と、少なからず驚いてしまいました。

クニマスが発見された富士五湖の一つの西湖には、釣りの対象魚で有名なヒメマスが生息しています。西湖のヒメマスも遠い昔に他の湖から移植されたもので、その後は西湖の環境にすっかりなじんだようで、今では人の手を借りずに西湖で立派に繁殖しています。

クニマスは限りなくヒメマスに近い魚で、たぶん同じベニザケの陸封型の魚なんでしょう。なので、遺伝的差異がほとんどなく、多少ヒメマスより体色が黒っぽく斑点がないというだけで、その差も個体的な差の範疇でくくられてしまうぐらいのものらしいです。
しかし、そんな近縁の魚なのに、なぜ、西湖でヒメマスと交雑せずに、これまでその血を守って生きながらえてきたのでしょうか。

水質が悪化する前、まだクニマスが生息していた頃の田沢湖にもヒメマスが移植されたらしいですが、田沢湖でもクニマスとは交雑がおこらず、湖の中で共存していたという事実があります。
その理由として考えられるのが、産卵期の違いらしいです。遺伝的に交雑の可能性があっても、お互い産卵する時期がずれていれば、交配した子孫も残りませんよね。
クニマスのオスも産卵期になったら、取り違えてヒメマスのメスを追っかけまわしたりしているのでしょうけれども、その気のまったくないヒメマス相手じゃ毎年見事にふられ続けているのでしょう。

そしてそのクニマスの産卵シーズンなのですが、それがこの調査依頼の話があった2月頃とのことなのだそうです。
ちなみにヒメマスの産卵期は他のサケ科の魚と同じく10、11月頃です。このわずか3,4カ月の違いがクニマスをクニマスたらしめている理由となるんだそうです。

富士五湖の一つの西湖
今回西湖で発見されたクニマスも、実はクニマスによく似たヒメマスじゃないのかとの話もあるそうですが、もし今回の調査で産卵シーンが撮影できれば、もう決定的にクニマスだということが証明されるわけです。なので、今回の調査は学術的にも、それはとっても意義のある調査となるわけです。

そこで、なんでクニマスの産卵調査にサイドスキャンソナー?ってことになりますが、実は調査依頼の話があった時にはNHKの取材班がすでに現地入りしており、ダイバーさんが調査に取り掛かっていたそうです。

そこでクニマスの産卵シーンを捉えるべく、ダイバーさんが湖底深くまで潜っていったらしいですが、湖水は透明度が悪く、しかも湖底は一面、浮遊性の泥、泥、泥、だったそうです。

てっきりクニマスも他の陸封されたサケ科の魚同様、湖に流れ込む川を遡上して産卵するのかと思っていましたが、田沢湖の文献によれば、クニマスが産卵する場所は湖の深い場所で、水が湧き出している砂利状の湖底なんだそうです。
この話にも少し驚きましたが、お世辞にも大きい湖とはいえず、泥が堆積した西湖でそんな条件を満たした産卵場が存在するのだろうか、そして、そんなクニマスがよくこれまであの小さい生態系の中で生き残ってこれたものだと感心しつつも、正直半信半疑でした。

ヤマメやイワナ、ニジマスなどのサケ科の魚の卵って、流水中でないと酸欠になって死んでしまうというイメージでしたが、クニマスはちょっと他のサケ科とは違う魚だったんですね。きっと田沢湖の環境の中で、固有のガラパゴス的な進化を遂げたのでしょう。まさしく、ダーウィン的な魚というわけです。
ちなみにヒメマスも湖で産卵するそうですが、もっと浅い場所でやはり水が湧き出ている場所だそうです。

まあそんなわけで、湖の深い場所は泥だらけ、ちょっと動くと泥が舞い上がって何も見えなくなってしまうほどなんだそうです。しかも地元の漁師さんがこの辺がクニマスの産卵場ではないかという場所には、捨てられた魚網とかが沈んでいて危険も伴うため、ダイバーさんによる調査はちょっと無理ということになったらしいです。
じゃあ、ダイバーさんが無理ならってことで、ROVと呼ばれる水中を自走するカメラも投入したのですが、湖底に近づくとやはり泥を舞い上げてしまい、底近くの映像を撮るのが難しいとのことでした。

そこで、我らがサイドスキャンソナーの投入とあいなったわけですが、前にも紹介したとおり、サイドスキャンソナーは魚群探知機を超高性能にしたようなもので、超音波を湖底にむけて発射し、反射して帰ってきた音波をひろって画像化する機械です。これならば水に潜らずとも、湖底の様子を広い範囲で探れるということでの依頼でした。

2月の西湖と富士山
そして勢い勇んで行ってまいりました、強風吹きすさぶ極寒の西湖へ!
久しぶりの西湖は富士山がとってもきれいでしたが、あいにくの気圧配置で湖の上は結構な荒れ模様。それでも海に比べれば大したことはないのですが、寒いのなんのって、ソナーを吊るすロープやら滑車やら、青っぱな混じりの鼻水までもが凍りつく始末。その前に調査で行ってきた冬の東北の海よりもよっぽど寒かったです。

そんなこんなで、なんとか2日間の調査を無事に終え、解析したデータとともに調査結果を後日提出いたしました。
ここでは著作権の都合で画像をお見せすることはできませんが、西湖の泥質の湖底に何箇所か砂礫と思われる反応のある場所がありました。

ソナーセッティング中
その後、取材班の方たちは、砂礫の反応のあった場所や魚群が写っていた場所を、船の上から垂直に吊り下げる水中カメラを使って、一つづつ確認していくとおっしゃってました。
結構気の遠くなる作業ですが、幸運を祈りつつ渋谷区神南方面を後にしました。


その後、サイドスキャンソナーについてよく知っておきたいとのお話があったので、再度渋谷区神南方面へ向かいました。その時は調査取材も無事終了したとのことで、水中映像を見せていただく機会に恵まれたのですが、そこにはなんと…、写ってるーっ!まさしくあのクニマスが、他のサケ科の魚同様、尾っぽで底をかいて産卵床を作っているお姿が!
しかもその後にダイバーさんがその場所に潜り、小石をどかしたらなんとそこにまさしくクニマスのイクラが!

凍りついた!
さすがに放精放卵シーンまでは撮れなかったようでしたが(たぶん)、しかし凄い、いやしかしNHKはやっぱり凄い!あのまだUMAレベルの西湖のクニマスを、水中映像だけでなく産卵行動までをもカメラに捉えてしまうとは!
恐るべしNHK取材班!これって技術だけじゃなく、強運もないと撮れないと思います。

そのようなわけで、NHK取材班さんたちの目標達成能力に感服しつつ、渋谷区神南方面を後にしました。
ちなみに、サイドスキャンソナーによる調査風景は、ちらっと写ってるはずです。ほんのちらっと。
クニマスの映像が思ったよりも撮れてしまったので、あまり出番が回ってこなかったそうで…。

いや、そんなことはいいんです。今回クニマスを撮るのにサイドスキャンソナーが少しでもお役に立っていれば、それで十分なんですってば。

そういったわけで、皆さん放映を楽しみにしててください。6月3日夜7時半からです。鉄腕ダッシュ見てる人も、この時間は「ダーウィンが来た」にチャンネルを切り替えることを忘れずに!


生き物新伝説 ダーウィンが来た!








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